ANTON BRUCKNER Symphonie Nr.8 C−moll

★★★★★:BEST
★★★★:
★★★:BETTER
★★:
★:GOOD

ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 ブルックナーは交響曲第8番をこのウィーンフィルで初演している。指揮はハンス・リヒター。聴衆にはブラームスもいてブルックナーの偉大さを認めたと伝えられている。歴史的見地からもウィーンフィルは最もこの曲に相応しいオーケストラだと思う。
指揮:ピエール・ブーレーズ
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
GRAMMOPHON POCG-10233
(1996年録/ハース版)
★★★★
サンクト・フローリアン修道院でのライブ。一貫して温かさと強さを感じる。しかもムジークフェラインでは考えられないサウンドだ。音楽博士であり、作曲家であり、フランス、ロシア音楽の第一人者であるブーレーズがブルックナーを指揮すること自体驚きだが、演奏の内容も驚きであった。一見淡々と演奏しているように思えるが実は細かい気配りがあるのだ。弦楽を大切にしてウィーンフィルに余裕を持たせていると感じるのはその気配りのせいだろうか?とはいえ音楽が貧弱という訳ではない。力強さを後押しして全体を引き締めている絶妙なコンビネーションだ。
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
GRAMMOPHON 427 611-2
(1989年録/ハース版)
★★★★★
威風堂々。ウィーンフィルがウィーンフィルである所以はこの演奏を聴けば万人にわかるだろう。風格あるオケがあり、帝王が指揮すれば、おのずと答えがでてくる。この演奏は20世紀のブルックナー像をあますところなく表現しているのではないだろうか。交響曲第8番がウィーンフィルで初演されてから、数々の指揮者がウィーンフィルと共にを競演してきた。しかしこれほどウィーンフィルの特徴を前面に打ち出した演奏はないだろう。特に前衛的トランペットやホルンなどまさに音楽による立体的空間が見えてきそうだ。きらびやかな管楽器を主役に弦楽が脇役として構成されているようにも聴こえる。私は幸運にもズビン・メータ指揮ウィーンフィルハーモニーというペアによる第8番を生で聴いたことがある。よって、ウィーンフィルの臨場感は体感済みだ。ライヴを踏まえていうなら弦楽器の臨場感が物足りない。美しさに加えて緊迫さが欲しい演奏だ。
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
GRAMMOPHON 415 124-2
(1984年録/ノヴァーク版)
★★
レコードアカデミー賞を受賞したCDという評価が素直に判る実に堂々とした演奏である。一貫したゆっくりしたテンポ、サウンドは、これでもか!といわんばかりの統一さがある。そして音楽の流れは大河のごとく、しかしロマン主義にはならない強い意志が感じられる。哲学的アプローチとしてブルックナーを考えるなら、まさにこれ以上の演奏はないだろう。ウィーンフィルの持っている美しいサウンドも統一というか均一というか、まるで職人芸のようで、気品ある王の風格がある。あまりにも生真面目なブルックナー。
指揮:カール・ベーム
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
GRAMMOPHON UCCG-9094
(1976年録/ノヴァーク版)
★★★★★
天使が歌っている。弦楽が、管楽が競って歌い、まるで聖歌のようだ。 これが本当のウィーンフィルのサウンドなんだと思える最高の演奏。 通常これだけ歌えばバランスを欠くはずが、ベームの統率力によって引き締められている。 まさに魔術としかいいようがない安定感だ。そして壮大な世界がこの演奏にはある。 ベームのブルックナーは孤高の山の頂きにある神の世界が目の前に広がる。
指揮:カール・シューリヒト
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
IMG Artists 7243 5 75130 2 9
(1963年録/ハース版)
★★★
ドラマチックでエレガントな演奏とでも言おうか。一つ一つの音に重みがあるが、重厚な重みではないのだ。カラヤンやベームという往年の巨匠の演奏と比べるとなにかが違う。華麗とも言えるサウンドがうねりを持ってたたみ掛けてくるのだ。神のような神々しさはない。ここにあるのは現実があるだけ...そう思えるリアルな演奏。あえてリアル主義と言おう。
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 誰もが認める世界最高のオーケストラ。彼らのブルックナーにはドイツ・オーストリア音楽の重厚さ、一貫した強さを兼ねそろえた「フォース」を感じる。
指揮:ギュンター・ヴァント
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
RCA VICTOR 74321 82866 2
(2001年録/ハース版)
★★★★★
少し高揚しているように聴こえるのはベルリンフィルが緊張しているからだろうか?少し荒々しい演奏なのでどうしても広大な海や大陸をイメージしてしまう。旅人の姿が見えるのだ!これこそブルックナーの精神世界なのだろう。演奏自体の完成度は北ドイツ放送SOの演奏に比べると低い。しかし表現力は圧倒的にベルリンフィルの方が高い。ヴァントはブルックナーの真の姿を見つけたのだろうか?その答えがこの演奏なら納得する。
指揮:ニコラス・アーノンクール
ベルリンフィルハーモニー管絃楽団
TELDEC 8573-81037-2
(2000年録/ノヴァーク版)
★★★
細かい表現をおろそかにせず、しっかりとしたサウンドを保ち、堂々としてテンポのいい快演。オルガンを意識してか、金管楽器のロングトーンがよく聞こえ、音の強弱をつけるアクセントで効果を発揮させる工夫が見受けられるためか、職人的印象を受ける。まとまりすぎといった感じではあるが全体的には聴きやすく、特に第二楽章が面白い。室内楽的演奏。
指揮:ロリン・マゼール
ベルリンフィルハーモニー管絃楽団
EMI RED LINE 7243 5 69796 2 8
(1990年録/不明)
★★★★
いつも快演を聴かせてくれるマゼールにしては堂々としている。しかもブルックナーサウンドを意識しているところが随所にあってなかなか素晴らしい演奏だ。金管楽器の鳴りはさすがベルリンフィルと言った感じだが、どことなくウィーンフィルに近いので、マゼールの狙いがサウンドの美しさにあることは素直にわかる。第2、4楽章では華麗で、ダイナミックで、かつはっきりとした足取りで語りかけるような演奏を展開してくれるので非常にわかりやすい。
ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団 不思議な事にミュンヘンフィルの演奏するブルックナーには名演が多い。ブルックナーファンとしては非常に注目しているオーケストラだ。
指揮:セルジュ・チェリビダッケ
ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団
EMI TOCE-9808・9
(1993年録/ノヴァーク版)
★★★★★
「何だこの演奏は?なんて偉大で崇高なんだ。」このCDを最初に聴いた感想である。実はチェリビダッケを最初に聴いたのは、愛知県芸術センターコンサートホールでのライブでした。オーケストラ脇のチープな席でしたが、音楽の息遣いを肌で感じ取れて未だに感動を覚えています。その時感じた音楽との一体感がこの演奏にはある。ミュンヘンPOがチェリビダッケの哲学を十分に理解し、共に良い音楽を求めた結果だろう。直下に17年前にシュトゥットゥガルトSOとの演奏との比較ということでタイムスタンプを載せてみた。この演奏時間がすべてを物語っているのではないだろうか?
第一楽章[20:56]/第二楽章[16:05]/第三楽章[35:04]/第四楽章[32:08]
指揮:ハンス・クナーパーツブッシュ
ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団
WESTWINSTER 471 211-2
(1963年録/1892年シャルク版)
★★★★★
職人ともいえる統率力が曲全体を支配している。この演奏は自他ともに認める歴史的名盤として名高いが、この演奏は他者を圧倒している。しかも単なる力技ではなく、曲の流れの大切さが素直にわかるので「柔よく剛を制す。」の格言がそのまま似合う演奏ではないだろうか?
その他の管弦楽団
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ライプチヒゲバントハウス管絃楽団
QUERSTAND VKJK 0604
(2005年録/ハース版)
★★★★★
ブロムシュテットのゲバントハウス管弦楽団退任コンサートのライブ。各楽器のきめの細かいアンサンブルが見事である。ゲバントハウスは、ただ単に世界最古のオーケストラというだけでなく、楽器の特性を熟知した集団なのだと改めて認識させられる。アンサンブルに着目し、起伏の激しいブルックナーとして仕上げており、自信に満ちた演奏である。まるで哲学者とアスリートの共存のようだ。
指揮:朝比奈 隆
大阪フィルハーモニー交響楽団
EXTON OVCL00199
(2001年録/ハース版)
★★★★★
私は愛知県芸術センターのコンサートホールで、前から2列目という幸運な席でこの演奏を聴くことができました。NHK交響楽団との違いは、音の厚みでしょう。大阪フィルの方が、しっかりとした肉質で、しかも早いテンポ。低音部の動きが手に取るようにわかるすばらしい演奏です。NHKSOの時よりも淡々としている印象だが、大阪PSOが朝比奈氏の指示通りまとまっているからこその整然とした凄みがある。さて、最終楽章だけを聴くとアッチェランドのせいもあるが、即興性が伺える。しかし1から3楽章までは非常に完成度の高い円熟した演奏で、朝比奈と大阪フィルが十二分にお互いを理解した「一期一会」とは無縁な存在であることがわかる。それよりも何ゆえ最終楽章が若さ溢れ、高揚的になるのか?何ゆえ同世代のヴァント、チェリのような腰の据わった解釈をしないのか?この点が未だわからない...
指揮:リッカルド・シャイー
ロイヤルコンセルトヘボウ管絃楽団
DECCA 466 653-2
(1999年録/ノヴァーク版)
★★★★★
深みがあって、落ち着いていて、感慨深い渋い演奏。広がりのあるサウンドの残響が素晴らしく、コンセルトヘボウ大ホールというレコーディングロケーションがこの曲を引き立てている。これほど柔なサウンドと剛のサウンドがクリアに聴けるのはめったにありません。録音でも大成功を収めていると言えるでしょう。内容ですが、随所に考え抜かれた英知が宿っています。第3楽章の弦楽のうねりが波の如く流れている表現は鮮やかだし、第4楽章の立体的なサウンドにはしびれるものがあります。教会での演奏以外でこれほどのブルックナーサウンドのシャワーが味わえるのはこの1枚だけでしょう。
指揮:ウラディミール・フェドセーエフ
モスクワ放送交響楽団
RELIEF CR 991063
(1999年録/1887年OriginalVersion)
★★
原典版を用いている為にまるで別の曲を聴いているような印象をもってしまう。しかしながら精鋭なるサウンドは特筆すべきところ。ロシアのオーケストラの持つ特徴ある金管の鳴りはいたるところで実力発揮している。このロシア的サウンドによって「春の祭典」にも似た破壊がいたるところに生まれる。この破壊こそが新しい風となってブルックナーの世界を駆け巡ると意外と面白いと思う。もしこのメンバーで3番を演奏したらどうなるだろうか?楽しみだ。
指揮:朝比奈 隆
NHK交響楽団
fontec FOCD9184/5
(1997年録/ハース版)
★★★★★
現存する朝比奈氏のCDの中でも最高と言われる演奏。私はこのCDで録音の翌日の演奏会に立ち会っていましたが、構成力のよさと持続した緊張感のよさはNHK交響楽団でしか体験できない高みを体験できました。典型的な日本人的ブルックナーであり後にも先にもこの演奏が一つの基準になることは間違いないと思う。これだけまとまった演奏は今後ないかもしれない...そんな気がする。奇跡の名演奏とはこのことであろう。
指揮:ギュンター・ヴァント
北ドイツ放送交響楽団
RCA VICTOR 09026 68047 2
(1993年録/ハース版)
★★★★★
大河に身を任せているような錯覚に陥ってしまうほどの雄大な演奏。一点の曇りもない明確なメッセージがここにはある。これがライブ演奏か!?と思ってしまうくらいの落ち着きさがあり時間を過ぎることも忘れてしまう。やはりヴァントはブルックナー指揮者なんだと思ってしまう。オーケストラも安心しきっているよう。まるでヴァントと一体になっているが如く。
指揮:エフゲーニ・スヴェトラーノフ
ソビエト国立交響楽団
MELDIA SC020
(1981年録/
ノヴァーク版)
★★★★
響く、鳴る、しびれるの3拍子を持った恐ろしく気合の入った演奏。スヴェトラーノフ自身は白熊の異名を持つ異才であるが、この演奏を聴くとチャイコフスキーの心だけでなくブルックナーの心も持っている事がわかる。またスコアも細部まで読みきっており単なる猪突猛進でない事もわかる。スヴェトラーノフの人となりが一目でわかる名演奏であろう。私は彼は白熊ではなく狼であると感じる。
指揮:スタニスラフ・スクロバチェフスキー
ザールブリュッケン放送交響楽団
ARTE NOVA 74321 43305 2
★★★★
ドイツ的ブルックナーではなく、どこか異国的なブルックナーを感じる若々しい快演。いたるところにオーケストラの統率力が光っており、聴きこたえのある演奏。しかし解釈自体が荒削りなので、全体的には落ち着きがないイメージ。とはいえこの演奏からは、自然人的、城的という言葉が思い浮かぶ。ロマン主義に足を踏み入れたブルックナー。
指揮:セルジュ・チェリビダッケ
シュトゥットゥガルト放送交響楽団
GRAMMOPHON 445 473-2
(1976年録/ノヴァーク版)
★★★★
グラモフォンから出ている数少ない正規版。一つ一つの楽器の特性を余すことなく聴かせてくれる名演。第一楽章から第三楽章までは晩年のチェリビダッケには見られない熱い演奏だが、第四楽章だけが晩年のチェリビダッケのゆったりしたテンポになってしまうので全体のバランスはあまりよろしくない。しかしながらシュトゥットゥガルトSOのサウンドは室内楽的で、楽器の「鳴り」が楽しめるのでブルックナーの良さを素直に感じ取ることができる。
第一楽章[16:16]/第二楽章[13:52]/第三楽章[27:08]/第四楽章[26:04]
指揮:ロブロ・フォン・マタチッチ
NHK交響楽団
Altus ALT048
(1975年録/ノヴァーク版)
★★★★
贅肉のない非常に引き締まった演奏。それでいてスケールは大きく他を寄せ付けない迫力がある。特筆すべきはまるでワーグナーのような金管セクションの輝かしさ。ブルックナーの特徴、つまりオルガン的、ワーグナー崇拝がこれほど見事に表現されているのはマタチッチ氏のなせる技であろう。マタチッチ氏の他のブルックナーでも見せている事だがテンポの変化には類を見ない稀有な意図が感じられる。
指揮:ヘルベルト・ケーゲル
ライプチヒ放送交響楽団
PILZ 44 2063-2
(不明/不明)
★★★★★
東ドイツ革命とレーベルに書いてあるが、まさに人間の生きる戦いをそのまま描写しているような力強い演奏。特に第2楽章のティンパニはまるで破滅的。これほど人間的なブルックナーはない。ケーゲルは、「ベルリンの壁の崩壊と時期を同じくして自殺した旧東ドイツの指揮者」という先入観があるせいかもしれないが、精神的強い意志が伝わってくるこの演奏は、間違いなくケーゲルの最高傑作である。(ドレスデンフィルハーモニーによるベートーヴェン全集があるがこれほどの熱演ではなかった。)冷静に聴いてもブルックナー的音響効果は十二分にあるので満足できる演奏だと思う。とはいえ冷静に聴く余裕はない。それほど心動かされる演奏なのである。このCDは、販売元が倒産したので今では手に入らない貴重な宝物である。

オーケストラ別、録音年代順にコメントしているつもりです...