コンサート感想 2022

2022年03月11日(金) 愛知県芸術劇場コンサートホール

〈井上道義のショスタコーヴィチ#8〉

名古屋フィルハーモニー交響楽団
井上道義(指揮)
佐藤晴真(チェロ)

プログラム
1.ハイドン:チェロ協奏曲第2番ニ長調 作品101(Hob.VIIb-2)
2.ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調 作品65
ソリスト・アンコール
バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調 BWV1008より第4曲「サラバンド」

ロシアの侵略とウクライナの防衛に対しての戦争の内面の葛藤を
どう処理して伝えるか?
名古屋フィルハーモニー交響楽団の実質的には悲劇を表徴した交響曲を
聴きたくなりましてお邪魔しました。

ハイドン:チェロ協奏曲第2番ニ長調 作品101(Hob.VIIb-2)

長い伝統と権威を誇るミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門において
日本人として初めて優勝して、一躍国際的に注目を集めたと言う
名古屋市出身で飛ぶ鳥を落とす勢いの若きチェリスト佐藤晴真を迎えして
ハイドンのチェロ協奏曲第2番ニ長調を聴いてみました。

ソリストによる呈示部で装飾的に歌われますし、
高度な技法が駆使されますし、
展開部でも、独奏チェロが主体となって進みますし
再現部も独奏チェロが中心です。
しかも、独創的個性バツグンなカデンツァの後、
第1主題冒頭の動機が出てきて、結ばれます。
全体的に思いますが、
オクターブの重音での上下動、速いパッセージ、極端な音の跳躍など
次々と難技巧が登場しますから
この曲は、古典的なバランスと名技性とが共存する、
大変魅力的な曲といえますね。
古典を進化し勝ち取ったから優勝の賜物なのかな。

ソリスト・アンコールでは、
バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調 BWV1008より第4曲「サラバンド」が演奏されました。

ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調 作品65

第2次世界大戦は、欧州やロシアでも悲惨な戦いを強いられました。
しかし、ソヴィエトは「一歩もひくな」を合言葉に、3カ月の激戦の末、
1943年にはドイツ軍を包囲し、殲滅することに成功します。
その後、ウクライナも解放しました。
ファシストとの戦争の勝利に沸くべき時に、人民の苦しみを表現し、
恐ろしい戦争の悲劇を反省しようとする試みだったショスタコーヴィチは何を伝えるのか?

ショスタコーヴィチは、スターリングラード攻防戦の犠牲者への墓碑として、
1943年の7月2日から9月9日にかけて、モスクワの「創作の家」で一気呵成に書き上げられた曲です。

曲としては、ベートーヴェンの『運命』と同じく
ハ短調に始まり、最後はハ長調で終わるというもので、
そこだけ見ると勝利の交響曲なのですが、
実際は短調の領域が長く重々しいもので、ハ長調になって盛り上がっても
最後は静かに暗く終わるため、どう聴いても勝利の交響曲には聴こえませんでした。

長い短調の第1楽章、戦争を思わせる第2、第3楽章、印象的な嬰ト短調の第4楽章が中心となり、
実質的には悲劇を表徴した交響曲になったのかと思えます。
ハ短調で始まり、ハ長調で終わる、というのは、本当は、
批判を避けるためのフェイクだったのかも知れません。
あまり勝利を感じさせないうえ、最後は静かに終わります。
つまり、激しい葛藤と悲しみのレクイエムを聴かせます曲が交響曲第8番ハ短調の意図なんです。

最後に、ロシアとウクライナが戦争しておりますが、
どう見てもウクライナの属国になりそうな雰囲気が大きくなってきています。
ウクライナは欧州の大国で、旧ソ連諸国の中で最も強くロシアの意向に逆らってきました。
しかし、今後はそうできないよう「二流国家」に作り替えようとする可能性があります。
ロシアとのもめ事や対立を恐れているからこそ交響曲第8番ハ短調の恫喝に屈しない世の中を作るよう
ウクライナのゼレンスキー大統領も北大西洋条約機構(NATO)加盟やEU首脳会議でも
全力投球すべきかと思います。
2024年にはパリオリンピックが行われそうですが、その前にすべきことがあるそうに思えます。










2022年03月31日(金) 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール (名古屋市民会館 大ホール)

名古屋フィルハーモニー交響楽団
愛知県立芸術大学管弦楽団
川瀬賢太郎(指揮)

プログラム
1.コープランド:バレエ「アパラチアの春」組曲【名フィル単独演奏】
2.チャイコフスキー:バレエ「白鳥の湖」 作品20(抜粋)【県芸大単独演奏】
3.ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」【合同演奏】

コープランド:バレエ「アパラチアの春」組曲

コープランドの音楽は、やさしく静かに始まります。
木管楽器と弦楽器はイ長調とホ長調の和音を同時に鳴らす
現代的手法を使っています。
全体は協和音に溢れており、音域を広く使っているため、
否応なしにアメリカの大草原を聴き手に喚起させます。
また、オープニングにつづく、変拍子を巧みに使った生命力溢れる音楽は、
当初考えていた振付を、想定以上に激しくしたといいます。
名フィル単独演奏ですから相当気に入っています。
美しい曲が、美しく仕上がっています。
大人の演奏です。

チャイコフスキー:バレエ『白鳥の湖』 作品20(抜粋)

県芸大単独演奏です。
確かな技術に、熱量と吸収力も兼ね備え、演奏に磨きがかかります。
新しい風がある伊吹を感じます。
いきなり『白鳥の湖』第2幕の湖畔の場面が抜粋で演奏されますと
県芸の妙技に心ときめきますしね。

ストラヴィンスキー:バレエ『春の祭典』

バレエ『春の祭典』とは、舞台はおそらくロシアの西の末端、
現在のリトアニアあたりだろうと言われています。
2つの部族が争い、太陽神が怒り、
その怒りを鎮めるべく乙女をいけにえにするという話で、
曲名の指す「祭典」とは、いわゆる人身供養のお祭りのことを指します。
つまり、ストラヴィンスキー自身の
「乙女たちが死ぬまで踊り続けるのを村の長老たちが輪になって見る儀式」
というアイデアを元に作られました。
リトアニア民謡"Tu mano seserėle(私の妹よ)" をベースにした
ファゴットの非常に高音域のイ調独奏で始まる調べ。
古典的な楽器法に精通したサン=サーンスが酷評したこの部分は演奏が大変困難であり、
ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』冒頭のフルート独奏と共に、
楽器の得意でない音域を敢えて使用するという作曲家の意思を読み取っているから
恐ろしい読みかと思います。
ストラヴィンスキーは、暴力、神への信仰、いけにえという内容を、
複数のロシア民謡を用いながら試行錯誤を重ね、
不協和音や不規則なリズムによって構成された奇抜な音楽で表現しました。
それが圧倒する全てかな。










2022年06月10日 愛知県芸術劇場コンサートホール

名古屋フィルハーモニー交響楽団
アントニ・ヴィット(指揮)
小菅優(ピアノ)*
居福健太郎(ピアノ)*
窪田健志(打楽器/名フィル首席奏者)*
ジョエル・ビードリッツキー(打楽器/名フィル首席奏者)*

プログラム
1.バルトーク:2台のピアノと打楽器のための協奏曲 Sz.115*
2.ブルックナー:交響曲第6番イ長調[ノヴァーク版]

ポーランドが誇る巨匠ヴィットは、自国の音楽のスペシャリストとして絶大な評価を勝ち得ています。
レパートリーはかなり広く、かねてからブルックナーへの意欲を燃やしていました。
名フィルがブルックナー交響曲第6番を演奏するのは、四半世紀ぶり2度目です。
しかも、バルトークでは、
ピアノ:小菅優 + 居福健太郎(小菅優さんの旦那様さまはピアニストの居福健太郎さん。)。
名フィル打楽器:窪田健志 + ジョエル・ピートリッツキーの
首席コンビ(居福健太郎 + 窪田健志は藝大同級生)の共演が実現します。

バルトーク:2台のピアノと打楽器のための協奏曲 Sz.115*

委託人として
バルトークの弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽 Sz.106* を
作って欲しいと依頼され作曲した所、
なかなか良かったので再度作曲依頼したのが
2台のピアノと打楽器のための協奏曲 Sz.115* です。
いきなり9/8拍子で、十二音音階を用いた
神秘的なスタイルの序奏で始まり、
活発なソナタ形式の主部(ハ調)へと推移する
快活なリズムに滅茶苦茶凄かったなっと思います。
また、ジャズ要素を取り入れながら
中央アジアンの様な音楽を取り込むとは、満喫極まりないのでしょう。
ピアノの生きる力も素晴らしいのですが、
打楽器が真の音楽性の中で生かされる極限を示しているので、
さすがバルトークでしょう。

ブルックナー:交響曲第6番イ長調[ノヴァーク版]

第1楽章
イ長調 2/2拍子が不点リズムを刻み
ブルックナー特有の3連符が叫ぶとブルックナーの特徴である展開部と
再現部の融合するとマックスパワーが全開するんです。
ワーグナー的な和声で展開がうまい響きを轟かします。
第2楽章
ブルックナーの緩徐楽章とオーボエによるエレジーは、もっとも美しいもののひとつです。
第3楽章
弦のピチカートに続いてホルンが牧歌的な主題を斉奏すると幻想的で変化に富んで面白かった。
第4楽章
弦による不安げな旋律の断片に導かれて、
ワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』の「愛の死」の動機が流れると展開が斬新な効果となります。
そして、弦による推進的な動機が繰り返されると金管楽器が児玉するんです。
力強く終わるポイントは、城の強みを峡谷する音楽なんだと思います。









2022年07月25日(月) 愛知県芸術劇場コンサートホール

OKAYA チャリティーコンサート2022

~感謝の夕べ~

【出 演】
下野竜也(指揮)
田村響(ピアノ)
中原梨衣紗(ヴァイオリン)
都築由理江(オルガン)
名古屋フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)

【曲 目】
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 op.19
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 op.43
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78「オルガン付」

アンコール
パガニーニ:24の奇想曲(カプリース) 第1番
メンデルスゾーン:無言歌集 第1巻 「甘い思い出」
サン・サーンス:アヴェマリア(オーケストラ版)

1.プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 op.19
中原梨衣紗さん(ヴァイオリン)は、中学2年生ですが、
全日本学生音楽コンクール・ヴァイオリン部門・全国大会第1位です。
感想ですが、プロコフィエフ自身が「夢見るような」と語った美しい動機からはじまり
そのフォルムが徐々に歪み、原始的躍動感を帯び始める、素晴らしいパフォーマンスでした。
アンコールで、パガニーニ:24の奇想曲(カプリース)第1番が演奏されましたけど、
24の奇想曲的には、中原梨衣紗さんは、まだまだ時間がかかるなと思いました。

2.ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 op.43
感想ですが、オーケストラで演奏される主題に、
パガニーニのカプリース第24番(パガニーニ大練習曲第6番の元)を原曲に用いていますので
聴きやすいスレーズがあるのです。しかし、田村響さんのピアノ音のでかい事です。
名古屋フィルハーモニー交響楽団の音が小さく思えたのは気のせいか。
アンコールで、メンデルスゾーン:無言歌集 第1巻 「甘い思い出」を演奏されましたが、
甘い甘いタッチでうっとりでしょう。

3.サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78「オルガン付」
感想ですが、神秘的なオルガンの響きと美しく、調和したこの主題は絶妙の組み合わせで、
オルガンの魅力を知りつくした、サン=サーンスならではのオーケストレーションかと思います。
特に、フィナーレの主部Allegroは循環主題をモチーフとしたフーガの魅力が見事かと思います。

アンコールで、サン・サーンス:アヴェマリア(オーケストラ版)を演奏されました。
いろいろなクラシックの作曲家が、アヴェ・マリアを作曲していますが、
サン=サーンスのアヴェ・マリアも親しみやすい美しいメロディかと思いました。










2022年08月29日 愛知県芸術劇場コンサートホール

小林研一郎(指揮/名フィル桂冠指揮者)
小山実稚恵(ピアノ)*

名古屋フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西村尚也

プログラム
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 作品73『皇帝』*
ブラームス:交響曲第1番ハ短調 作品68

【ソリスト・アンコール】
ベートーヴェン:エリーゼのために(バガテル イ短調 WoO59)
ピアノ:小山実稚恵

【オーケストラ・アンコール】
アイルランド民謡[グレインジャー編]:ロンドンデリーの歌(ダニー・ボーイ)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 作品73『皇帝』*

小山実稚恵と言えば圧倒的存在感をもつ日本を代表するピアニスト。
チャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際ピアノコンクール入賞以来、常に第一線で活躍し続けています。

ワイン・レッドのシックな衣装の小山実稚恵氏が登場しピアノに向かいます 
小林研一郎の指揮で第1楽章冒頭の和音が奏でられ、すぐに小山のピアノが華々しく入ってきます。
私が一番好きなのは、第2楽章から第3楽章に移るところです。
第2楽章が弱音で終わり、切れ目なくピアノが爆発するかのように最強音を叩きます。
小山実稚恵の演奏はコントラストが鮮やかでした。
第3楽章はピアノとオケの掛け合いがテンポ感よく続けられます。
皇帝に相応しい堂々たるフィナーレを迎えまました。

さて、アンコール曲ですが、ベートーヴェン:エリーゼのために(バガテル イ短調 WoO59)が演奏されのです。
主部との対比が明確で、形式的にも簡素で分かりやすい、女性の恋の叙情がポイントと行った所でしょうか。

ブラームス:交響曲第1番ハ短調 作品68

ブラームスの交響曲第1番では、小林氏は暗譜で指揮しており、身体を動かして指示を出していました。
各セクションの響きが整えられていて、特に第2楽章の弦楽器の合奏部分がしっとりと美しく、感激しました。
第4楽章は、かなり盛り上げていましたが、第2、第3楽章中心にロマン派の曲だという思いを抱いた演奏でした。

アンコールで、アイルランド民謡[グレインジャー編]:ロンドンデリーの歌(ダニー・ボーイ)を演奏されていました。
オリジナルの楽譜という概念自体が存在しない伝統音楽の世界ですから、
奏者から奏者へと伝えられていくうちに曲の形が様々に変化していくのは普通のことだから、
今回はオーケストラの愛おしさがでる曲なのかなと思いました。











2022年10月27日 愛知県芸術劇場コンサートホール

キンボー・イシイ(指揮)
フィリップ・ベロ―(クラリネット)

名古屋フィルハーモニー交響楽団

プログラム
ウェーバー:歌劇『オイリアンテ』序曲
ウェーバー:クラリネット協奏曲第1番 ヘ短調 作品73
ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68『田園』

【アンコール】
即興 〜 岡野貞一:故郷(ロバート・ボルショス、浅井崇子との共演)
モーツァルト:セレナード第13番ト長調 K.525『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』より第2楽章「ロマンツェ」

ウェーバー:歌劇『オイリアンテ』序曲
1823年にウィーンで初演された《オイリアンテ》はウェーバーの意欲作であったものの,
3時間を超える上演時間の長さと台本の不備が足枷となり、繰り返し上演されるまでには至りませんでした。
しかし序曲を含めた音楽の完成度は高く、これまでにもさまざまな改訂版が上演されるなど、人気が途絶えることはありません。

ウェーバー:クラリネット協奏曲第1番 ヘ短調 作品73
クラリネット協奏曲第1番 ヘ短調 作品73は、カール・マリア・フォン・ウェーバー(1786-1826)が1811年に作曲したクラリネット協奏曲です。
曲は短期間で仕上げられ、2か月後の6月13日には、ウェーバー自身の指揮、ベールマンのクラリネット独奏で初演が行われています。
独奏クラリネットは技巧を凝らしながらドラマティックに幅広い音階を駆け巡り高揚した素晴らしい演奏と思います。

【アンコール曲】で
即興 〜 岡野貞一:故郷(ロバート・ボルショス、浅井崇子との共演)がトリオ演奏しました。

ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68『田園』
交響曲第5番「運命」と双生児とも呼ばれる交響曲第6番「田園」は、
1801年の夏、ベートーヴェンが、その自然の風景をこよなく愛していたウィーン郊外の
ハイリゲンシュタットで作曲されました。
第5番と第6番は同時期に作曲されたにもかかわらず、その2つはまさに対照的な性格をもっています。
「運命」が一音の無駄もなく極めて凝縮され、精神的な迫力をもっているのに対して、
「田園」はその明るさと自然の持つ開放感のある安らかさが溢れています。
このように2曲は、相反する性格をもっている反面、時を同じくして作曲されたある種の相関関係をもっていることがわかります。
その冒頭ですが、「運命」のffと「田園」のpという違いはありますが、八分休符のあと、「タタタ」と入るところは全く同じです。
そのあとフェルマータで終始してから始まるところ、展開部での広がりなどは双生児のそのものでしょう。

【アンコール曲】
モーツァルト:セレナード第13番ト長調 K.525『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』より第2楽章「ロマンツェ」が演奏されました。